「まずはこれ食べて」原田ひ香
私の中の最近の注目の作家さんの一人、原田ひ香さん。
読了した本は
「ランチ酒」「ランチ酒おかわり日和」「三人屋」とおすすめはたくさんあります。
全てご飯の描写が美味しそうな小説であり、ちょっと癖のある女性を描きつつ、どちらかというとほっこりさせてくれる作品です。
「まずはこれ食べて」も同じ類の小説かなと思って読み始めました。
最初はそういう感じだったのですが・・・。
「まずはこれ食べて」あらすじ
大学時代の仲間が集まって、医療系ITのベンチャー企業「ぐらんま」を立ち上げ、会社の軌道が乗ったところから始まります。
仕事が忙しくなり、会社内が散らかり放題、荒んだ状態を打破しようと社長が家政婦を一人雇ったところ、その家政婦さんが作る料理がとびきり美味しい。
大学時代の仲間とはいえ、多忙になるにつれ、各々様々な悩みを抱えています。
荒んだ心を癒してくれる料理。
それが家政婦の筧みのりが作ってくれる料理だったのです。
一応短編集になっていますが、全て「ぐらんま」のメンバーのストーリーになります。
第一話「その魔女はりんごとともにやってきた」
第二話「ポパイじゃなくてもおいしいスープ」
第三話「石田光成が昆布茶を淹れたら」
第四話「涙のあとでラーメンを食べたものでなければ」
第五話「目玉焼きはソースか醤油か」
第六話「筧みのりの午餐会」
エピローグ
メンバーの紅一点の胡雪は才能ある仲間に比べ、自分は会社に貢献していないのではないかという不安を常に感じつつ、女性だからと思われる事にも嫌悪感を感じる難しい性格。
家政婦の筧みのりに対しても過剰な反応を示し、怒りの感情がむき出し。
そんな胡雪に、筧みのりはりんごでデザートを作ります。
りんごを切って、フライパンに入れ、砂糖も何も加えず、ただ焼くだけ。
それを市販のアイスに載せた簡単なデザートを胡雪に差し出します。
食べた瞬間、胡雪の感情的な心も溶けてゆく・・・・と。
胡雪は性格が悪いというより、仕事が出来る男性の中で自己嫌悪に陥ってしまってのでしょうね。
第二話はバイトのマイカの話。
フィリピンに住む叔母に仕送りを続けるハーフのマイカはモデルの仕事をしつつ、「ぐらんま」でもアルバイトで働いている。
幼少期の複雑な環境から、幸福感を感じていない。
そんなマイカに家政婦の筧さんが作るほうれんそうのスープ。
第三話は今まで順調に成功を収めてきた営業の伊丹の仕事と婚約者の葛藤。
とこの辺りまでは、悩み多き彼らを家政婦の筧みのりの美味しいごはんによって、心が溶きほぐれていってと、ある意味人情小説だと思っていました。
鍵は創業者でありながら途中で失踪してしまった柿枝の存在。
柿枝は大学時代から盛り上げることが得意なコミュ力が高く、明るく誰にも好かれる存在。
誰よりも何でも出来ると思われていたが実際は最初のとっかかりは得意だけれど、最後までやり通せないという実際には単なる明るいお調子者。
それでも柿枝の存在が必要だと思っていたメンバー達。
話の後半には柿枝の謎が明かされていき、それがまた思ってみなかった結末に更にびっくり。
家政婦の筧みのりにも抱えている秘密があって、そちらの内容も不思議なものでした。
意外な結末に驚きつつも、人にはみんな他人には見せない顔や秘密や悩み事があって、それでも生きて、生きるためにはご飯を食べなければいけない。
「まずはこれ食べて」!!なのですね。
最後はシビアに考えさせられるストーリーでしたが、ご飯の描写はとてもお腹がすくものでした。
正直「ぐらんま」メンバーや家政婦筧みのりのその後が気になります。
続きはあるのかなぁ?
第六話「筧みのりの午餐会」に出てくるだし巻き卵焼きがとっても美味しそうでした。
卵焼きのレシピは卵5個に、だし汁1カップ弱、塩小匙三分の一、薄口醤油一滴、これを銅の卵焼き器で焼きます。
家政婦の筧さんのどこにも負けないお祖母ちゃん直伝の自信作です。
今一番狙っている卵焼き器です。